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【東園基昭の「一粒万倍日記」2026.7.19】

【東園基昭の「一粒万倍日記」2026.7.19】

《タイトル》 「皨(せい)」《サイズ》P10号(530 × 410 mm)《作品内容》土星のシルエットに、菊尽くし、宝尽くし(土星の環に線描)、扇面紋様(背景)。「皨」は、「星」の異体字(別の字体)であり、「ほし」「天体」を意味する。また、成り立ちにおいては、澄んだ輝く星を表す文字とされている。夜空に光って見えるほし、 遠くに見えるほしのように小さいもの、こまかいもの。   第三十一回目『和合回帰』 宇宙という漆黒の反物に、土星はぽつりと浮かんでいる。地球の約九・五倍という巨躯でありながら、その正体は水素とヘリウムでできた軽やかな気体の塊。もし水を湛えた巨大な器があれば、土星は沈むことなく水面に浮かぶという。約三十年かけて悠然と一周するその歩みは、急かず焦らず、けれど止まらない。西洋占星術ではこの星を「試練」「制限」「基盤」の象徴とし、時に厳しく、時に慈しみ深い、愛のある親のような「人生の教師」に喩える。中国の五行思想では土気を司る星として「鎮星」と呼ばれ、東西どちらの視座からも、土星は人を律し、支える存在として語り継がれてきた。その力は矍鑠たる老年の神の名にふさわしく「乗り越える力」や「諦めない心」、「しっかりとしたサポート」として現される。 この重くも軽くもない独特な浮遊感と、能装束にまとう吉祥紋様への憧憬を、心象風景として画面に重ねた。天空を思わせる深く蒼い背景を、扇のかたちをしたフレアが掬い上げる。掬われるものは、まるで水面に映った宇宙に漂う土星のシルエット。その窓の中には菊尽くしの紋、そして金環には宝尽くしの紋、すなわち「天・地・人」の三才である。 土星の輪は、数センチから数メートルの氷の粒が集まってできた薄い帯にすぎない。厚みはわずか十メートルほどというから、あの巨大な星にしてみれば紙一枚ほどの繊細さだ。この「天」の象徴に対し、「地」として据えたのは菊尽くし紋様。菊は天花といい不老長寿と邪気払いを願う吉祥紋様として、平安の昔より料紙や工芸に用いられ、皇室の御紋にも通じる格式を纏う。そして「人」として選んだ宝尽くし紋様は、隠れ蓑や打ち出の小槌、宝珠など、人が幸いを願う心そのものの形象化である。 天体という壮大な理と、人が古来紡いできた吉祥への祈り。本来交わることのないはずのこの二つを、一枚の絵の中で和し合わせること。それが「和合」の意味するところであり、本作の主題である。天然の岩絵の具(地球の石を砕いて作られた顔料)を用いて宇宙の天体を描くという行為自体もまた、天と地との和合にほかならない。 日本画のルーツは、世界最古の絵画技法のひとつに数えられるという。その古層に根を張りながら、現代を生きる作家の眼と手で新たな表現へと接ぎ木する。 伝統と現代、天地人、東洋と西洋の宇宙観、めぐりめぐって、すべてはまた一つに還っていく。その回帰の先には、氷の粒がきらめく環のように、未来もまた輝きを放ちながら、私たちを照らし続けるだろう。東園基昭 拝

【東園基昭の「一粒万倍日記」2026.7.19】

《タイトル》 「皨(せい)」《サイズ》P10号(530 × 410 mm)《作品内容》土星のシルエットに、菊尽くし、宝尽くし(土星の環に線描)、扇面紋様(背景)。「皨」は、「星」の異体字(別の字体)であり、「ほし」「天体」を意味する。また、成り立ちにおいては、澄んだ輝く星を表す文字とされている。夜空に光って見えるほし、 遠くに見えるほしのように小さいもの、こまかいもの。   第三十一回目『和合回帰』 宇宙という漆黒の反物に、土星はぽつりと浮かんでいる。地球の約九・五倍という巨躯でありながら、その正体は水素とヘリウムでできた軽やかな気体の塊。もし水を湛えた巨大な器があれば、土星は沈むことなく水面に浮かぶという。約三十年かけて悠然と一周するその歩みは、急かず焦らず、けれど止まらない。西洋占星術ではこの星を「試練」「制限」「基盤」の象徴とし、時に厳しく、時に慈しみ深い、愛のある親のような「人生の教師」に喩える。中国の五行思想では土気を司る星として「鎮星」と呼ばれ、東西どちらの視座からも、土星は人を律し、支える存在として語り継がれてきた。その力は矍鑠たる老年の神の名にふさわしく「乗り越える力」や「諦めない心」、「しっかりとしたサポート」として現される。 この重くも軽くもない独特な浮遊感と、能装束にまとう吉祥紋様への憧憬を、心象風景として画面に重ねた。天空を思わせる深く蒼い背景を、扇のかたちをしたフレアが掬い上げる。掬われるものは、まるで水面に映った宇宙に漂う土星のシルエット。その窓の中には菊尽くしの紋、そして金環には宝尽くしの紋、すなわち「天・地・人」の三才である。 土星の輪は、数センチから数メートルの氷の粒が集まってできた薄い帯にすぎない。厚みはわずか十メートルほどというから、あの巨大な星にしてみれば紙一枚ほどの繊細さだ。この「天」の象徴に対し、「地」として据えたのは菊尽くし紋様。菊は天花といい不老長寿と邪気払いを願う吉祥紋様として、平安の昔より料紙や工芸に用いられ、皇室の御紋にも通じる格式を纏う。そして「人」として選んだ宝尽くし紋様は、隠れ蓑や打ち出の小槌、宝珠など、人が幸いを願う心そのものの形象化である。 天体という壮大な理と、人が古来紡いできた吉祥への祈り。本来交わることのないはずのこの二つを、一枚の絵の中で和し合わせること。それが「和合」の意味するところであり、本作の主題である。天然の岩絵の具(地球の石を砕いて作られた顔料)を用いて宇宙の天体を描くという行為自体もまた、天と地との和合にほかならない。 日本画のルーツは、世界最古の絵画技法のひとつに数えられるという。その古層に根を張りながら、現代を生きる作家の眼と手で新たな表現へと接ぎ木する。 伝統と現代、天地人、東洋と西洋の宇宙観、めぐりめぐって、すべてはまた一つに還っていく。その回帰の先には、氷の粒がきらめく環のように、未来もまた輝きを放ちながら、私たちを照らし続けるだろう。東園基昭 拝

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